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神戸地方裁判所 昭和31年(ケ)244号 決定 1956年10月05日

債権者 関西信用金庫

債者務 向山勝 外一名

主文

申立人の債務者向山勝に対する別紙債権目録<省略>記載の債権につき抵当権実行のため、本件別紙第一物件目録表示の不動産にかゝる競売申立を、当裁判所昭和三十一年(ケ)第一八号不動産競売事件の記録に添附する。

別紙第二物件目録表示の不動産にかゝる競売申立は、これを棄却する。

本件競売申立費用中、申立人、債務者向山勝間にかゝる部分の十分の一並びに、申立人、債務者向山昌孝にかゝる部分の全額は、申立人の負担とする。

理由

一  申立の趣旨

申立人の債務者両名に対する別紙債権目録記載の債権につき抵当権実行のため、別紙第一及び第二物件目録表示の不動産について競売手続を開始する。

との決定を求める。

二  申立の理由

申立人は、債務者向山勝の懇請により債務者両名に対し、昭和二十九年四月十九日金十二万五千円を左記特約の下に貸し付け、且つ、その返済を担保するため債務者向山勝所有にかゝる別紙第一物件目録表示の不動産、並びに、債務者向山昌孝所有にかゝる同第二物件目録表示の不動産の上に抵当権の設定を得た。

1  無利息

2  弁済期日・昭和二十九年七月十七日

3  債務不履行の際は、借主において金百円につき一日七銭の割合による遅延損害金の支払義務を負う。

4  債務は、借主両名の連帯責任とする。

しかるに、債務者両名は、前記弁済期限を徒過し、その後申立人に対し昭和三十一年四月末日までの約定遅延損害金を支払つただけで、その余の支払をしないから、別紙債権目録表示の貸付元本並びに約定遅延損害金債権の満足を得るため、抵当権の実行として前記各不動産につき競売手続の開始を求める。

三  当裁判所の判断

申立人が債務者両名に対し、昭和二十九年四月十九日金十二万五千円を申立人主張の特約の下に貸し付け、その返済を担保するため、債務者向山勝所有にかゝる別紙第一物件目録表示の不動産、並びに、債務者向山昌孝所有にかゝる同第二物件目録表示の不動産の上に抵当権の設定を得たことは、記録上明らかである。

しかるに、右第一物件目録表示の不動産については、主文第一項掲記の競売事件において、既に昭和三十一年一月二十八日競売手続開始決定がなされているので、民事訴訟法第六百四十五条を準用し、右不動産にかゝる本件競売申立を前記競売事件の記録に添附すべきものとする。

次に、債務者両名が連帯して申立人に対し貸金十二万五千円を返済すべき債務を負担し、その担保として別紙第二物件目録表示の債務者向山昌孝所有不動産の上に申立人主張どおりの抵当権が設定されたことは、前認定のとおりであるが、記録中の「抵当権設定金員借用証書」と題する書面、並びに、債務者等にかゝる戸籍抄本によれば、右債務者昌孝は、未成年者(昭和十三年七月二十四日生)であることから、その親権者である父向山勝及び母向山照子において、右債務者を代理し右連帯債務の負担並びに抵当権設定に及んだことが認められる。ところで、民法第八百二十六条によれば、「親権を行う父又は母とその子と利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない」が、いうところの「利益が相反する行為」には、親権者が子を代理して自己と共に連帯債務を負担したり、自己の債務のために子の財産の上に担保権を設定したりする場合も含まれるし(大審院大正三年九月二十八日判決・大審院民事判決録第二十輯六九〇頁以下登載参照)、また、右利益相反関係が親権を行う父及び母の一方のみとその子との間に存するときにも、特別代理人の選任が必要で、その特別代理人と利益相反関係に立たぬ父又は母とが、共同して子を代理すべきである(民法第八百十八条第三項参照)。それ故、本件の場合のように、右特別代理人の選任手続を経ないで、親権を行う父母が、その子を代理して父と連帯債務を負担し、且つ、その担保のため子の所有不動産の上に抵当権を設定した行為は、法定代理権のない者がしたものとして無効であるといわなければならない。してみれば、申立人は、別紙第二物件目録表示の債務者昌孝所有不動産について抵当権を有するものでないから、その抵当権実行にかゝる競売申立は、失当として棄却を免れない。

以上の理由により、競売申立費用の負担につき民事訴訟法第九十二条本文、第八十九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 戸根往夫)

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